あらすじ
七十四歳の夫婦、朔也と澪。
三十年続けた店を閉じ、日本へ帰国して三年が過ぎたある朝、
ふたりは静かなアパートで、これまでの人生を振り返っている。
若い頃、四十二歳で脱サラし、家も車も手放して渡米したこと。
不安のほうがずっと大きかったはずなのに、
それでも前へ進んだ日々。
そして六十六歳の夏、
「もう一度、自分たちの時間を走ってみよう」と選んだ旅――
アメリカ・ルート66。
シカゴから始まる道は、
都市の音をほどき、荒野へと続いていく。
廃墟となったガソリンスタンド、
人の去った町、
夜の星空の下で立ち止まる時間。
旅の途中で澪は、
「私は、何を選んできたのだろう」と
初めて自分自身に問いを向ける。
朔也もまた、言葉にしない不安と覚悟を背負いながら、
黙ってハンドルを握り続けている。
これは、
人生の終わりに向かう物語ではない。
手放したもののあとに残った“余白”を、
もう一度生き直すための旅の記録。
静かな道の先で、
ふたりはどんな声を、自分自身の中に聞くのか――。