あらすじ
美大受験で挫折し、感情をノイズとして排除することで47年間を生きてきたデザイン科教諭・椎名悠。彼の世界はすべて「効率」と「論理」に支配されたモノクロームだった。
ある日、生徒を引率して訪れた展示会で、彼はかつて告白し、拒絶された美大仲間・朝霧紬と奇跡的な再会を果たす。造園アーティストとして「生のクオリア」を体現する紬は、悠に手作りの柏餅を差し出す。その強烈な甘さと清涼感が、彼の長年麻痺していた五感を強制的に覚醒させ、「無感情のシステム」に致命的なバグを発生させる。
過去の痛みに苛まれるシリアスな純文学調の展開と、愛の非効率なバグに翻弄されるコミカルなラブコメ調の展開。二つの異なる物語を通して、悠は感情という名の「熱」を取り戻し、魂の再生を試みる。これは、すべてをデータ化した男が、計算不能な愛によって救われる、二面性の物語である。