あらすじ
感情が“電波”として観測される近未来。
人々は喜びや不安を光の粒としてまとい、互いの心を読み合いながら生活していた。しかし高校生のアオイだけは、どれだけ笑っても泣いても、周囲に感情波が一切映らない“無波形の少女”として知られていた。本人も理由を知らず、ただ「私には感情が薄いのだろう」と思い込んでいた。
放課後、共感体質の少年レンは、アオイの近くでだけ微弱な“星屑のようなノイズ”を聞き取っていた。彼にはそれが、誰にも届かないアオイの“心の歌”だと直感的に分かっていた。
ある夜、突然世界中の感情波が乱れる異常な超高周波が空から降り注ぐ事件が起きる。人々は動揺し、街は混乱する中、唯一まったく乱れない感情波を持つのがアオイだった。そしてその頭上には、淡く瞬く星のような波形が生まれていた。
観測塔の警報は告げる——
「異常電波の中心軸:アオイ・ミナト」
アオイの体内に眠っていた特殊な信号が、空の超高周波と共鳴し暴走し始めていたのだ。このままでは周囲の感情波を飲み込み、都市の電波網を混乱させる危険があった。
「大丈夫。俺がつながるから」
レンはアオイに手を差し出し、二人の心を強制共鳴させる装置を起動する。危険な方法だが、アオイの“声”を受け取れるのはレンだけだった。
強い光の中、レンの感情がアオイへ流れ込む。
喜び、孤独、恐れ、そしてアオイへの想い——
そのすべてが温かい波としてアオイを包み、暴走していた星のノイズを静めていく。
初めて“感情”を誰かに受け取ってもらえたアオイの胸に、熱が生まれた。
「……れん」
震える声で名前を呼んだ瞬間、暴走は完全に止まり、夜空を揺らしていた波が静かに消えた。世界は安全を取り戻し、レンはそっとアオイの手を握り続ける。
「聞こえたよ。アオイの声」
アオイは涙を浮かべて笑い、初めて自分の感情が誰かに届いたことを知った。
夜空には二人の感情波が重なり、星のように優しく瞬いていた。