あらすじ
身分証なし。金なし。頼れるツテもなし。
行き倒れ寸前で路地裏に転がっていた蜥蜴人の青年・山田太郎は、猫人の女主人ミケに拾われ、「何でも屋・ミケ」の居候として働かされることになった。
薪割り、水汲み、樽運び、皿洗い、床磨き──終わりの見えない雑用の日々。
太郎はそれを「竜の修行」だと言い張り、「竜的行動指針」なる中二病じみた設定で、かろうじて自尊心をつなぎ止めていた。
ミケはそんな太郎を、「よく働く力持ち」として実利だけで評価する現実主義者。
甘やかしもしないが、必要以上に踏みつけてもこない。
猫人の青年トラは、太郎を「ごっこ遊び」と見下し、その自称「竜」のプライドをへし折ろうとする。
猫人の少女クロは、太郎にちょっかいを出しては、路地裏の空気をかき回すトラブルメーカーだ。
そしてある夕暮れ、「迷い猫横丁」のど真ん中で、太郎とトラの喧嘩試合が勃発する。
猫人、犬人、鼠人たちが勝敗に賭け、路地は「猫人、にゃめんにゃー!」の大合唱。
トラの拳がうなり、太郎の身体がきしむ中、自称・竜のカウンターがトラの頬をとらえたとき──犬人の衛兵が乱入し、試合は強制終了となった。
騒動の後始末を一手に引き受けたのも、やはりミケだった。
太郎の「逃げずに立ち続けた根性」と「腕っぷし」を見込んだミケは、身元引受人として冒険者ギルドへの登録を提案する。
しかし、その前に待っていたのは容赦ない現実だ。
治療代、飯代、宿代、特製軟膏の技術料にクロの手間賃まで、あらゆる名目で差し引かれていく太郎の日当。
計算の結果、太郎の手元に残ったのは、大銅貨一枚ぽっきり。
この街で「生きる」ということの厳しさと、それでも「飯はうまい」という理不尽を同時に叩き込まれながら、太郎はよそ者としての一歩を踏み出していく。
これは──
猫人だらけの路地裏で、
自称・竜の蜥蜴人が、
ボロ雑巾のようにこき使われながらも、
少しずつ「本物」に近づいていく物語。
第1章「迷い猫横丁編」では、喧嘩と飯と路地裏の日常を。
第2章「冒険者ギルド編」では、身分証も素性も怪しい新米冒険者としての、最初の一歩を描きます。
登場人物
山田太郎(やまだ・たろう)
蜥蜴人の青年にして、自称「竜」。
身分証も金もなく、この街へ流れ着いたよそ者。筋力とタフさはあるが、世間知らずで場慣れしていない。
「竜の誇り」「竜的行動指針」など、自分ルールで虚勢を張る一方、その裏には妙に真面目で不器用な芯がある。
身体強化系のルーン魔法を扱い、いざというときは案外しぶとい。
ミケ
三毛猫の猫人女性。「何でも屋・ミケ」の女主人。
酒場兼食堂兼よろず屋を一人で切り盛りし、表の仕事から裏の揉め事まで、この界隈の事情に通じている。
太郎を「よく働く労働力」として居候扱いにする徹底した現実主義者で、金勘定に容赦はない。
だが、衛兵相手にも物怖じしない度胸と、さりげなく人を助ける懐の深さも持ち合わせている。
クロ
黒猫の猫人少女。ミケの娘であり、「何でも屋・ミケ」の看板娘兼トラブルメーカー。
梁の上や屋根の上を遊び場にし、悪戯と冷やかしをこよなく愛する。
太郎の中二病めいた言動をからかいながらも、喧嘩の後始末や治療の手伝いはきっちりこなす。
母譲りの毒舌と、人を巻き込んで場を盛り上げる才覚の持ち主。
トラ
虎柄模様の猫人青年。迷い猫横丁きっての腕自慢。
拳に魔力をまとわせた一撃と、鋭くえぐるボディーブローを得意とする喧嘩屋。
太郎を「ごっこ遊び野郎」と見下し、実戦経験の差を思い知らせてやろうとしている。
一方で、自分の頬に入った太郎のカウンターは正面から認めるなど、「強さ」そのものに対しては意外と公平な目を持つ。
その他
猫人、犬人、鼠人など、さまざまな獣人がひしめく路地裏「迷い猫横丁」。
街の治安を預かる犬人の衛兵たち。
冒険者たちが集う「冒険者ギルド」。
太郎は、そんな面々と関わり合いながら、「竜」と「よそ者」のあいだで揺れる自分の居場所を探していく。