あらすじ
わたしには名前がある。
それはシズク。
意識を持つ、たった一滴の水。
三十五億年前、わたしは原始の海で目覚めた。
以来、わたしは地球のすべてを見てきた。
三畳紀の首長竜の涙となり、中世の修道士に末期の水として飲まれ、戦場の兵士の最期を看取り、少女のプールで夏の喜びを知った。
人類は文明を築き、芸術を創造し、そして破壊した。気候変動が地球を蝕み、やがて太陽が膨張を始めた。海が沸騰し、人類は滅びた。
しかしわたしの旅は終わらない。地球の重力を振り切り、星間空間を漂い、新しい惑星へとたどり着く。そこで再び、生命が芽生える。わたしが運んできた記憶と共に。
水は循環する。生命は循環する。記憶も循環する。
これは、宇宙の記憶を宿す一滴の水が語る、壮大な生命の叙事詩。
恐竜から人類へ、地球から新世界へ。永遠に続く、意識と記憶の旅。
あなたが今日なにげなく飲む水にも、きっと秘められた物語がある――。