あらすじ
主人公・志島哀流聖《しじま・あいるしょう》は、自分の名前を憎んでいる。
母の狂気めいた偏愛のもとで育ち、成長するにつれ「父に似ていく息子」に女として依存するようになった母の影から逃れられなくなった。一度歯車が狂うと落ちていくのは一瞬で、彼の日常は悪夢のように濁っていった。
十七歳で家を飛び出した哀流聖は、繁華街で拾われ、二十三歳になった今も夜の世界で“アルト”として生きている。
眠れば今も母の亡霊が現れる。塗りつぶすように、彼は毎夜女を抱き、虚無を消そうとし続けている。
そんな彼の前に、二人の“異端”が現れる。
一人は、歩道橋で虚ろな目をしていた家出少女・瀬奈《せな》。
身体を売り、一日をつなぐように生きている危うい少女。その無垢な笑顔に、哀流聖はかつての自分を重ねてしまう。
瀬奈はその日、死ぬつもりだった。だが、哀流聖だけは彼女の「死にたい」という言葉を否定も説教もせず、普通の会話の温度で受け止めた。瀬奈は初めて、「もう少し生きてみてもいい」と思う。
さらに、哀流聖は瀬奈に、偶然知り合った青年・神羅《かむら》を紹介する。
アメリカンビンテージのオンラインショップを経営し、自分と同じく変わった名前を持つトランスジェンダーの神羅が、堂々と自分として生きている姿に、哀流聖は衝撃を受ける。
大人を信じられず、自分の存在理由を見出せなかった瀬奈も、そんな二人の姿を見て「こんな大人もいる」と初めて思い始める。
哀流聖は母の狂気に今も縛られ、
瀬奈はネグレクトの家で透明人間のように育ち、
神羅は自分の存在を恥と断じた母に殺されかけた過去を持つ。
それぞれの傷を抱えた三人が夜の街で出会い、
互いの生き方に触れながら、ゆっくりと変わっていくーー。
絶望の底で交わった魂が、かすかな再生へと向かう物語。
大人に不信感を抱き、自分の存在価値を見出せず、常に希死念慮を抱いていた瀬奈は、そんな二人を見ていくうちに、
哀流聖は母の狂気に今なお支配され、瀬奈はネグレクトの親に透明人間として扱われ、神羅は自分を恥だと言う母に殺されかける過去を持つ。
それぞれの痛みを抱えた3人が、夜の街で出会い、互いの生き方を知ることで、少しずつ変化していく、絶望と再生の物語。