あらすじ
佐藤和人は妻を亡くし、娘もアメリカ留学中の孤独を抱え、早期退職を機に誰にも告げず石川県山代温泉の山奥にある小さな温泉宿「雪灯り」へやって来た。雪深いオフシーズン、他に客は誰もいない。
女将の美津子も三年前に雪崩で夫を失い、息子を金沢に預けながら夫の夢だった宿を守っている。互いに似た喪失を抱える二人は、夕食の席で自然と身の上話を交わす。美津子は「気晴らしに」と一人宴会プランを勧め、佐藤は「普通の娘だと退屈だから」と、とびきり変わったコンパニオンをリクエストする。
美津子が呼んだのは23歳のマアちゃん。メンヘラでゴスロリで、霊感があるという壊れかけの人形のような少女だった。踝までのダウンを脱ぎ、黒のベルベットミニドレスに身を包んだマアちゃんは正座し、丁寧に挨拶した途端、佐藤の額が彼女の後頭部にゴツンとぶつかる。
「私の頭はもっと柔らかくて、壊れやすいのに……」と微笑みながら、すぐに佐藤の額を舐め、冷たい舌を這わせる。出会って五分も経たないうちに距離はゼロ。彼女はストッキング越しの太ももを擦りつけながら囁いた。「私の体、死人の体温くらい冷たいでしょ……」
雪の降りしきる山奥の小さな宿で、傷ついた中年男と壊れた少女の、凍てついた夜が始まろうとしていた。