あらすじ
副業サイトに登録したものの、鳴らない通知。
売れないライターであり、売れない男でもある主人公は、やけ半分の思いつきでプロフィールにこう書いた。
「AI安楽椅子探偵はじめました。どんな謎でもお任せください」
もちろん、本気ではない。
自宅に座ったまま、チャットと生成AIを駆使して推理をする。そんな「安楽椅子探偵ごっこ」に、本物の依頼など来るはずがないと思っていた。
ところが、ある日ついに一件のメッセージが届く。
「テレビのリモコンが見つからないんです」
拍子抜けするほどささやかな相談。だが話を聞いていくうちに、それが「十年前の失踪」と奇妙に結びついていることが少しずつ見えてくる。
SNSのタイムライン、消えたアカウント、ログイン履歴、残された購入履歴。
画面の向こう側にしか世界を持たない依頼人と、部屋から一歩も出ないAI安楽椅子探偵。
ふたりの孤独が、チャットのやり取りを通して少しずつ触れ合ったとき、十年前から止まったままの時間が音を立てて動き出す。
これは、大きな事件の物語ではない。
ニュースにもならない、小さな「行方不明」と、小さな「さよなら」の物語だ。
AI、副業、SNSに囲まれた時代に、なお誰かを想う気持ちはどこへ向かうのか。
静かに、やさしく心に残るミステリー。