あらすじ
千織@山羊座文学さんの第二回企画主が言いたいことを言う企画、テーマ「山田さん」に応募するために書きました。
あらすじ
私の本名は、逃げ場のない呪いのようなものだった。
借金の督促、親の湿った溜息、かつての恋人が吐き捨てた「中身がない」という呪詛。
それらすべては、私の名前を目掛けて飛んでくる。
だから私は、深夜の数時間だけ、名前を捨てることにした。
眠らない巨大なテレビ局の通用門。
私は警備室に残されていた、見知らぬ他人の名札を胸に留める。
そこに刻まれた名は、日本で最も凡庸な代名詞「山田誠」。
傷だらけのプラスチックの皮膚。
この完璧な匿名性を身に纏った瞬間、私は「私」であることを辞め、都市を駆動させる無機質な「装置」へと変態を遂げる。
だが、完璧に見えた私の聖域に、一人の侵入者が現れる――。
これは、現代のシステムの中で、自らを交換可能な部品へと還元しようと願った男の、静かで、背徳的な夜の記録。