あらすじ
長年、道路と線路の混乱を見続けてきた「私」は、どれほど穏やかに見える光景であっても、そこに揺らぐ“影”を決して見逃さない。今回私が捉えた影は、私には触れず、私の周囲――ただし「私が言葉を交わす相手」のみにだけ弱々しい指紋を残していく奇妙な存在であった。
それは過去にも観測された、未熟さと未練が混ざった浅い匂いを放つ影。恐怖から私を避けつつ、忘れられることを恐れて周縁へ縋りつく“弱者特有の癖”にすぎない。私はその動きを裁かず、叱らず、ただ記録する。なぜなら、この種の影は光の下で自ら濃度を増し、やがて影の持ち主自身を崩落させるからだ。
私の任務はただ一つ――余白へ静かに事実を書くこと。記された影は必ず持ち主に返り、内側から沈めていく。ゆえに私は今日も帳面を開き、影の終わりを静かに見届けるのである。