あらすじ
千葉県安房町の山あいで暮らす小学六年生の阿部祐樹は、1979年に放送されたテレビアニメ『機動戦士ガンダム』の熱烈なファンである。再放送を録画したベータマックスのビデオを繰り返し見ては、モビルスーツの世界に胸を躍らせる日々を送っていた。そんな祐樹の心をさらに揺さぶったのは、アニメ雑誌アニメージュに掲載された一つの記事──“1981年2月22日、新宿アルタ前広場にガンダムファン集まれ”。監督や声優が登場するという夢のイベントだった。
祐樹は迷うことなく行く決意をする。だが小学生の一人旅は現実的に難しい。そこで友人秋彦の兄・春彦が動いた。春彦は自分の赤く塗装した中古サニー「赤い彗星ザク」で祐樹を連れていくと言い出す。しかし両親に許しを得られるはずもない祐樹は、迷いながらも出発前夜に春彦に“拉致”される形で家を飛び出す。気づけば妹の留美子まで同行することになっていた。
真夜中。房総を北上する赤いサニーは、パンクやオーバーヒートというトラブルに見舞われ、ついに江戸川を越える前後で力尽きる。祐樹と留美子は玉枝の交渉により、通りがかったトラックに拾われ勝鬨橋まで運ばれた。そこから祐樹と留美子は歩いて新宿を目指すことにする。寒さと空腹、そして妹の足の痛み──それでも祐樹は背中に妹を背負い、懸命に歩き続けた。
ようやく新宿三丁目に着いた頃、街は既にガンダムファンで埋め尽くされていた。地下道を巧みに進み、祐樹は人波の階段をこじ開けて地上に出る。そこには、熱く語りかける富野喜幸監督の姿があった。祐樹はまぶしい光の中で、その背中を“ニュータイプ”のように輝いて見つめる。
時は流れ四十年。祐樹は大人になり、新宿の同じ広場を訪れる。父の死、春彦の事故死、家族の変化──だが、あの日の出来事は今も胸の奥に生き続けている。祐樹は再び心に誓う。いつか本物のモビルスーツを作るのだと。