あらすじ
かつて「神の手」と呼ばれた天才外科医・瀬戸湊(28)。
彼は3年前、自らの執刀ミスで最愛の妹を死なせたトラウマからメスを握れなくなり、医師としてのキャリアを捨てた。
逃げるように辿り着いたのは、海を見下ろす「桜ヶ丘サナトリウム」。そこで彼は、素性を隠し用務員として働き始める。
ある日、湊は中庭の大桜の下で、車椅子の少女・天宮咲と出会う。
重い心臓病を患う彼女の胸の中で動いていたのは、あの日、湊が救えなかった妹の心臓だった。
「ねえ、私の心臓の音、聞いてみて? 誰かが泣いてる音がするの」
彼女が口ずさむ、妹しか知らないはずの未完成のソナタ。
見たことのない風景の記憶。
それは「細胞記憶(セルラーメモリー)」が引き寄せた、残酷で美しい運命の再会だった。
妹の死に囚われ、時間を止めてしまった男。
他人の命で生きる罪悪感を抱え、時間が残り少ない少女。
二つの魂が共鳴する時、止まっていた時間が再び動き出す。
これは、罪を背負った元医師と、命を繋いだ少女の、ひと春の恋と再生の物語。