あらすじ
「ユリア・フォン・ヴィッテ! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」
大講堂の壇上で、王国の第一王子ギルバート様が叫んだ。
その声量は見事だった。
おそらく腹式呼吸が十分に機能しており、肺活量も平均的な成人男性の数値を上回っているだろう。
彼の隣には、ピンクブロンドの髪を揺らす小柄な少女、男爵家養女のミア・リリィ嬢が、怯えたように身を寄せていた。
「……聞こえているのか、ユリア! 貴様のその冷徹さ、もはや我慢ならん!」
ギルバート様がさらに声を張り上げる。
私は懐中時計をパチリと閉じてポケットにしまい、ゆっくりと口を開いた。
「ええ、聞こえておりますわ、殿下。素晴らしい発声です。音響工学的観点から見ても、このホールの残響時間を計算に入れた、実によく通るお声でした」
「なっ……、ふざけているのか!?」
さて、殿下はこの婚約破棄が、国を滅ぼす可能性があることに、はたして気がついているのでしょうか?