あらすじ
都内の高校に通う平凡な高校二年生、久我陽介(くが・ようすけ)は、ここ数週間、原因不明の体調不良に悩まされていた。
朝、太陽が昇ると同時に身体が鉛のように重くなり、直射日光を浴びれば肌が火傷のように爛れる。日中の学校生活は睡魔との戦いであり、友人たちからは「寝不足か?」と心配される日々。
しかし、不可解なことに、日が沈む夕暮れ時を迎えると症状は一変する。死人のように白かった顔色には生気が戻り、思考は冴え渡り、身体の奥底から爆発的なエネルギーが湧き出してくるのだ。そして何より恐ろしいのは、食事が砂のように味気なくなり、代わりに指を切った友人の血の匂いに、理性を揺さぶられるほどの「食欲」を感じてしまったことだった。
「昼夜逆転生活」とも「心の病」ともつかない不安な日々。そんな陽介の孤独な日常を壊したのは、クラスで「高嶺の花」と噂される美少女、皇(すめらぎ)かれんからの突然の呼び出しだった。
放課後の喫茶店。周囲をはばかるように奥まった席で、かれんは陽介の顔を冷徹に観察し、信じがたい事実を宣告する。
「貴方、自分が何になっているのか分かっていないようね」
彼女が突き出した手鏡の中には、鮮血のように紅く発光する瞳を持った、人ならざる陽介の姿が映っていた。
「貴方は『吸血鬼』に覚醒したのよ」
彼女の説明によれば、この世界にはファンタジーの産物とされる「超能力」や「魔法」を行使できる「能力者」が実在するという。陽介は、その中でも特に忌避されがちな、血液を渇望する特性を持つ「吸血因子保有者」――通称・吸血鬼として覚醒してしまったのだ。
平凡な日常からの追放宣告に絶望する陽介。
これから俺は、人の血をすすって生きる怪物として、退治される運命なのか? 病院に行けば、未知の奇病として隔離・実験されるのではないか?
パニックになる陽介に対し、かれんは意外な解決策を提示する。
それは、千二百年以上の歴史を持ち、日本の裏側で怪異や能力者を管理してきた国家機関――内閣情報調査室・特殊事象対策課、通称『八咫烏(ヤタガラス)』への登録だった。
彼女の言葉によれば、現代日本において能力者は法律で管理される対象であり、ヤタガラスに正規の手続きを行えば、怪物として排除されることはない。それどころか、吸血鬼が生きていくために必須となる「医療用血液パック」の支給さえ受けられるという。
「病院に行けば通報されて実験体コースだったわね。私に感謝しなさい」
彼女は陽介の手を取り、翌日、官公庁が立ち並ぶ霞が関の地下深くに眠るヤタガラス本部へ連行することを決める。
太陽を恐れる少年と、訳知り顔の美少女。
二人の奇妙な協力関係が始まった時、陽介はまだ知らなかった。書類申請から始まるその道が、やがて東京の夜を揺るがす、激しい異能の闘争へと繋がっていくことを。
なろうにも掲載してます。