あらすじ
異世界に勇者として呼ばれた――はず、だった。
だが、召喚陣の光が収まり、ステータス鑑定の結果が告げられた瞬間、俺――篠原悠真(しのはら ゆうま)は悟った。
隣に立つ三人の職業欄には、眩しいほどの称号が並んでいる。『異世界からやって来た勇者』。
対して、俺の職業欄に表示されたのは、どこまでも間の抜けた一行だけだった。
――『巻き込まれた異世界人』。
彼らには、聖剣術、聖槍術、聖魔法……ゲームやネット小説で見慣れた“勇者テンプレ”の華々しいスキルがずらりと並ぶ。
それなのに、俺に与えられた固有スキルはたったひとつ。
『ネットカフェ』。
剣も槍も魔法も使えない。どうひっくり返しても前線戦闘向きとは言いがたいスキルを持つ俺が、「役立たず」扱いされるまでに、そう時間はかからなかった。
冷ややかな視線と、同情とも嘲笑ともつかない空気。そのどれもが、「お前はおまけだ」と無言で告げてくる。
しかも追い打ちをかけるように、この国の王の物言いが、どうにも胡散臭い。
勇者たちには甘い言葉と豪華な待遇を並べ立てるくせに、召喚の代償や、この世界の危険、本当の目的については、肝心なところになると途端に歯切れが悪くなる。
――ああ、これはダメなやつだ。
長年の趣味でネット小説を読み漁ってきた俺には、嫌でも分かった。
これは、憧れていた“当たりルート”の異世界召喚じゃない。巻き込まれモブが真っ先に死ぬタイプの、ハズレイベントだ。
『ダメだ。これはあかんタイプの異世界召喚だ』。
そう結論づけた俺は、その日のうちに動いた。
王の言葉を適当に受け流し、勇者たちの影に紛れ、口先三寸で護衛や侍従たちの目をすり抜けて――城からの脱出に成功する。
頼れるのは、たったひとつの固有スキル『ネットカフェ』だけ。
この世界の真ん中に、深夜の都会の片隅みたいな「安堵の箱庭」を出現させる、とんでも系生活スキルが、やがて俺の運命を大きく書き換えていくとも知らずに。
こうして、巻き込まれ異世界人・篠原悠真の、
――勇者でも賢者でもないくせに、異世界をのんびり生き延びてしまう“ネットカフェ放浪記”が始まったのだった。