あらすじ

大手食品メーカーのコンプライアンス室に勤務する**佐藤拓海(34)**は、かつて弁護士を目指していた。司法試験には失敗したが、「どんな立場でも正義は貫ける」と信じ、社内の不正を許さない堅物として周囲から煙たがられていた。 ある日、拓海のもとに匿名通報が入る。主力製品の原材料に、軽微だが表示義務のあるアレルゲンが混入している可能性があるというものだった。拓海は「消費者の命を守るのが最優先だ」と奮起し、休日を返上して極秘で調査を進める。徹夜続きの調査の末、彼は決定的な証拠を掴む。 拓海は意気揚々とその報告書を役員会議に持ち込む。しかし、そこで待っていたのは、彼が想像もしなかった**「大人の現実」**だった。 役員たちは拓海の証拠を認めた上で、データを見せる。今このタイミングで大規模な自主回収を行えば、ブランドイメージの失墜に加え、多額の賠償金で会社は確実に倒産する。そうなれば、全国の自社工場で働く何千人もの従業員とその家族、そして下請け企業の命運までもが絶たれることになる。 「君の言う『正義』は、この数千人の人生を破壊してでも優先されるべきものか?」 部長からの問いかけに、拓海は激しく葛藤する。しかし、守るべきは「正しい表示」なのか、それとも「社員たちの生活」なのか。 拓海が出した答えは、**「完璧な隠蔽」**だった。 彼は以前培った法務の知識をフル活用し、証拠を論理的に抹消し、通報者である若手社員を「別の不祥事」を捏造して口封じをする。誰よりも働いて、誰よりも緻密に、彼は「悪」に染まるための努力を尽くした。 物語の最後、無事に(?)問題が揉み消された祝杯の席で、拓海は部下の若手社員から、かつて自分が上司に向けていたものと同じ、軽蔑に満ちた眼差しを向けられる。 誰も死なず、会社も守られた。しかし、かつての拓海が最も嫌っていた「嘘で塗り固められた大人」が、そこに一人完成していた。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2025/12/10
  • 現在の作品成れの果て