あらすじ

プロローグ すべてを持っているはずだった。 学歴も、容姿も、育った家、肩書きも。 周囲が羨むものを、最初から与えられていた。 なのに、ツキの胸の奥には、ずっと同じ問いが沈んでいる。 ——なぜ私は、普通ができないんだろう。 恋愛の距離も、踏み込まれる瞬間も、 誰にとっても自然に流れるはずのことが、 自分だけは不自然に止まる。 自信がないわけではない。 むしろ「自信があるように見える」ことばかりが先行して、 中身が追いつけなかった。 どれも“自分で得たものじゃない”。 そんな感覚が、いつの間にか身体の底に沈着していた。 衝動的に、一ヶ月の有給を取った。 飛行機を避け、昔の旅人のように、 船と鉄道だけでロンドンを目指すことにした。 理由は説明できない。 でも、どこかで「今の自分のまま戻りたくなかった」だけだった。 東京から小倉へ向かう途中、 彼女は静かに決めていた。 ——この一ヶ月は、“誰でもない自分”でいたい。 そして小倉のカフェで、 国立大学院生のホシと出会う。 研究のため世界を巡る予定だという彼は、 ツキの背景を聞こうともしなかった。 ただ、旅の話に目を輝かせただけだった。 その瞬間、 ツキは、心のどこかで微かな音を聞いた。 何かが変わる音だった。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2025/12/09
  • 現在の作品1ヶ月の賞味期限〜嘘と旅路〜