あらすじ
カチャ、カチャ、カチャ、ッターン。
乾いたプラスチックがぶつかり合う音が、静まり返ったオフィスに虚しく響いた。
深夜三時四十二分。
東京都港区にある雑居ビル、その五階。株式会社「フロンティア・ソリューションズ」の制作部フロアには、もはや空調の送風音と、俺――工藤聡(くどう・さとし)が叩くキーボードの打鍵音しか存在していなかった。
蛍光灯の白い光が、じりじりと網膜を焼いている気がする。
瞬きをするたびに、まぶたの裏側で砂粒が擦れ合うような不快な摩擦感があった。ドライアイ用の目薬は三時間前に空になった。ゴミ箱に投げ捨てたピンク色の小さなプラスチック容器が、カランと虚しい音を立てたのを今でも鮮明に覚えている。
俺は充血して霞む視界を、強引にピント調整しながら、目の前の二十七インチモニターに映し出された「それ」を睨みつけた。
Microsoft Excel。
緑色のアイコンでおなじみの、表計算ソフト。
現代のビジネスパーソンにとっての武器であり、盾であり、そして時に、魂を縛り付ける鎖でもある代物だ。