あらすじ
主人公:さくら
名は柔らかいが、立っているだけで空気が変わる。
長身。
並の男が見上げる背丈。
細いのに、刀を握れば音が変わる。
“女は戦場には立たぬ”と決めつけられた世に生まれ、
それを壊すために歩き出した者。
剣術はただ強いのではなく、理屈をも越える瞬発の正確さがある。
刀の重さを忘れたような振り抜き。
骨格だけでは説明できない力の使い方。
だが──
どれほど甲冑を着ても、
どれほど声を低く落としても、
消えないものがあった。
若い女の体が持つ、桃の皮を指で擦った時のような甘い匂い。
さくら自身は意識しない。
むしろ邪魔だ、とさえ思っている。
だが、人の鼻は抗えない。
遠くの者が振り返る。
密やかな部屋では、武士たちが妙にそわつき、
それを“空気の変調”と誤解する。
――その匂いは、女であることの証明であり、
彼女がどれほど否定しようとも、
**この世界に刻まれたさくらの性(さが)**だった。
その矛盾こそが、彼女の傷であり、原動力でもある。
男と渡り合うために、
“女であることの痕跡”を憎みながら――
それでも誰よりも誇り高く、前へ出る。