あらすじ
どこにでもいる男の子、いつもどおりの帰り道。
両親から医者になるよう期待される中、彼は変わり映えのない勉強漬けの日々を過ごしていた——あの港で死ぬまでは。
目が覚めると、彼の目の前には先ほどとはまったく違う景色が広がっていた。
どこからか聞こえる鳥の鳴き声、ぽかぽかとしたあたたかい気候、鼻先をかすめる素朴な土の匂い……さっきまでオレは夜の港にいたはずなのに。あの港から落っこちて、水に溺れていたはずなのに。どうして自分は今こんなところに……?
元の世界で溺死した直後、彼は訳もわからず異世界での生活を始めることになった。
この世界でなら人生をやり直せるだろうか。時間がゆっくり流れるこの牧歌的な世界でなら、向こうの世界とは違う人生を送れるんだろうか。
なにをやっても空回りで上手くいかず、両親の期待に応えられないまま毎日を過ごし、いつ終わるとも分からない苦しみに耐える人生から……あの人生から解放されるだろうか。あのストレスとプレッシャーから自由になれるんだろうか?
きっと、これは夢なんだ。
いつ覚めるかも分からない束の間の夢なんだ。そうに決まってる。
だったら、だったらオレは——。
——【本文より引用】——
Prologue:夢の始まり
ねぇ、信じられる?
元々わたしは男の子で、今は女の子だってこと。
この話をしてもきっと誰も信じてくれないと思う。だって、わたしだっていまだに信じられないんだから。
わたしは今でもこれが夢なんじゃないかって思ってる。いつ覚めるかも分からない束の間の夢だって思ってる。まるで、いい映画を観終わった後すぐ現実に引き戻されるみたいに。感動的な映画が最後のエンドロールを迎えたあと、真っ暗だった館内が急に明るくなるときみたいに。
この映画の幕がいつ上がるかなんて、わたしにだってちっとも分からない。
この夢みたいな舞台の幕がいつ上がるかを、ちゃんと知ってる人なんてどこにもいない。きっと、これは神さまがわたしにくれた束の間の夢だから。いつ消えるかも分からない泡沫の夢だから。
だから、わたしは精いっぱい生きる。
神さまがくれたこの命を精いっぱい燃やし続ける。あとから振り返ったときに、けっして後悔がないように。
この宝ものみたいな夢の時間を、わたしは精いっぱい生き続ける。
だって、これはわたしの……わたしたちの物語だから。