あらすじ
数学的に心が可視化される世界──位相学園では、生徒一人ひとりの「心」が幾何学的な形として存在している。球面(S²)の律は、完全で閉じた心を持つ孤独な少年。同級生の翡斗はトーラス(T²)の形を持ち、過去と未来に二つの「穴」を抱えている。二人が近づくと空間が歪み始める異常現象が起こり、学園の日常は静かに軌道を外れ始める。
文化祭の準備でともに展示を手がけるうち、律と翡斗は互いの心に共鳴を感じる。二人の心が重なった瞬間、世界が凍りつき「位相共鳴」と呼ばれる現象が発生。それは相思の証であり、同時に宇宙構造に干渉する危険な力でもあった。やがて律の球面に不可能な「穴」が開き、世界は次元を越えた崩壊へと進む。学園を包む四次元の歪みの中で、翡斗はかつて別の学園で起こした共鳴と、失われた少女・紗綾の記憶を語る。罪と恐れを抱く彼に対し、律は「完全なる孤独」を脱ぎ捨て、想いを受け止めようと決意する。
数学教師・真白は「どちらかが告白すれば宇宙は収束するが、片方は消滅する」と告げるが、親友・環の言葉に導かれ、二人は互いを犠牲にせず“新しい形”を創る道を選ぶ。文化祭当日、律と翡斗は同時に告白する。二つの位相空間――球面とトーラス――は融合し、高次元の「四次元共通体」へと進化。崩壊しかけた宇宙は安定を取り戻し、二人は肉体を超え、学園そのものと一体化した存在、「新世界の主」となる。
誰にも見えない次元で結ばれた二人は、なお互いを感じ合いながら、人々の心を見守り続ける。吹き抜ける風の中に微かに響く声──「ここにいるよ」──それが、彼らの愛と宇宙の位相が永遠に重なり続ける証だった。