あらすじ
二十八歳の田中大輔のもとに、故郷の祖母から一通の手紙が届いた。
「大好きです」
そう綴られた手紙は、どこか季節感がずれていて、文字は震えている。
週末、実家に帰った大輔を待っていたのは、認知症と診断された祖母の姿だった。そして母が見せてくれた引き出しには、同じ内容の手紙が何十通も束ねられていた。
祖母は毎日、書いたことを忘れては、また同じ手紙を書き続けていた。
記憶を失い、やがて大輔の名前も、顔も、自分が誰なのかさえ分からなくなっていく祖母。それでも彼女の手は、毎日便箋に向かい、ペンを握ろうとする。
「大切な人に、想いを届けなければ」
その一心で。
会うたびに「初めまして」と言われても、大輔は祖母のそばにいることを決めた。一緒に手紙を書き、一緒に桜を見上げ、一緒に時間を過ごす。
記憶が消えても、愛は消えない。
祖母が最後に力を振り絞って書いた言葉は――
繰り返される日常の中で紡がれる、祖母と孫の、かけがえのない日々の
涙なしには読めない、記憶と愛の物語。