あらすじ
数年前の大火で深く傷ついた港湾都市クロウフォード。
街にはいまも、「層」と呼ばれる見えない断面のほつれが残っている。
玄関だけが消えた家、沈む桟橋、白紙になった記録、止まりかけた時計塔──。
都市縫合局クロウフォード支部の修復士・ミオは、
指輪型の《継糸機(バインダー)》とペン型の《送針器(クーリエ)》で、
ほつれた層を縫い合わせ、街の日常を繕う仕事をしている。
大火で家族と記憶の一部を失ったミオ、
大規模な「縫合」の判断を悔やみ続ける支部長、
港に縛られた先輩修復士、居場所を探す新人、
諦め半分で街を見つめる同僚、白紙の記録を前に揺れる記録官。
街のほつれを縫うたびに、
彼ら自身の心に隠された層も、少しずつ綻びを見せ始める。
失われたものは、完全には戻らない。
それでも、“今から先”を縫い直すための物語。