あらすじ
【全15章/脱稿済み。毎日更新】
原因不明の流行病と長引く天候不順により、人の気配が薄くなった街。
海だった土地の上に積み重ねられた住宅街では、“令和海進”のニュースが日常のノイズになりつつある。
ピアノから逃げるように東京へ出てきた汐見は、換気塔の見える安アパートで、最低限の生活と単発バイトをただ繰り返していた。鍵盤にはもう触れない。完璧であることを赦してくれなかった音楽からは、距離を取ったはずだった。
そんなある夜、線路脇の鉄柵のそばで、ずぶ濡れで倒れている青年を見つける。
皮膚ではなく骨の奥から冷えているような体温。濡れた足跡はすぐに輪郭を失い、水にほどけて消えていく。
「朔」と名付けたその青年と暮らし始めてから、汐見の生活は少しずつ変わっていく。
湯船に沈み続ける朔。水色の塔から吹き出す白い“息”。
空気に混じる潮の匂い。公園の蛇口から検出された海水の成分。
世界のほうがじわじわと壊れていく中で、汐見は初めて「守りたいもの」を自覚していく。
これは、沈みかけた世界の片隅で、
ピアノを捨てた青年と、水に縛られた「怪物」が、
音と生活と“居場所”を選び直すまでの物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。