あらすじ
はくちょう座X-1の近傍に浮かぶ、有人探査ステーション『アレクサンドリア』。
天才物理学者エリアス・ノヴァクは、狂気にも似た執着で、ある装置の開発に没頭していた。
『ムネモシュネ・レンズ』。
ブラックホールの事象の地平線に保存された情報を読み取り、失われた過去を完全な解像度で再構成する「神の目」だ。
エリアスの目的はただ一つ。5年前に医療ミスで亡くなった最愛の妻、サラの死の真相を目撃すること。
ついにレンズは起動し、美しき過去の日々が蘇る。
だが、それと引き換えにステーション内で不可解な現象が頻発し始めたのだった。
置いたはずのコーヒーカップが消える。
壁に穴が開く。クルーの「妹の記憶」が、最初から存在しなかったことのように抹消される。
それは「情報の保存則」による等価交換だった。
過去(データ)を現在に引き出せば、その質量分だけ、現在(リアル)が削除される――。
世界が画素(ピクセル)のように崩れ落ちていく中、エリアスは選択を迫られる。
ステーションの全滅か、妻との永遠の決別か。
そして、レンズの解析深度が極限に達した時、死にゆく妻が隠していた「ある数式」が、この宇宙そのものを覆す驚愕の真実を暴き出す。
これは、愛という名のバグが引き起こした、美しくも残酷な宇宙の崩壊記録。