あらすじ

『マッチ売りの少女』

——雪の街角の詩——

白い息が
夜の闇にほどけていく。

街は急ぎ足の光で満たされているのに、
わたしの足元だけが
音のない雪に沈んでいく。

ポケットの中には
売れ残りのマッチがひと箱。
冷たい木の軸が
まるで凍った心臓みたいに
じっとしている。

一本、擦る。
ぱち、と小さく咲く火の花。

その一瞬だけ、
わたしの世界に
あたたかい色が戻る。

ローストの匂い、
テーブルの湯気、
祖母の手のひら。
全部、火といっしょに
ひと呼吸で消えてしまうけれど、
それでも火は、
わたしの“見てほしいもの”を照らしてくれる。

もう一本。
もう一度だけ、
おばあちゃんの声を聞きたい。
編みかけのマフラーに残った
羊毛のやわらかい匂いと、
「泣かないでね」と言った
あの胸の鼓動を思い出したい。

けれど、
通りの人は誰ひとりとして
わたしの火を覗きこまない。
寒さより、
見えないことのほうが痛い。

最後のマッチを握る手は
もう動かない。
火がつくかどうかより、
火がついた“その後”が
怖くなくなっていく。

だから、擦った。
ぜんぶ。
ひと束まとめて。

まぶしい光の中、
おばあちゃんが笑っていた。
こんなにも近くで。
こんなにもあたたかく。

雪が舞い落ちる大晦日の街角で、
わたしはようやく気づいたの。

——炎は、消えるためにあるんじゃない。
  誰かに届くために、
  一瞬でも強く燃えるんだ。

わたしが残した小さな灰が
道ばたで風に揺れる。

もし、
だれかがそれを拾いあげてくれたなら、

わたしの火は、
まだ、
どこかで灯っている。

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アルファポリス
アルファポリス2025/12/03
  • 現在の作品マッチ売りの少女