あらすじ
夜桜麗奈(よざくられいな)は、普通の科学者(二十三歳)だった。
……いや、“陰キャ”科学者だった。
夕方、彼女は一人イヤホンをしてスマホの画面に夢中になっていた。
乙女ゲーム——『セレスティア・ラブメロディ~光魔法と甘い恋~』
通称『ラブメロ』。
麗奈はこのゲームが大好きだった。
そんな彼女が“転生”するなんて、誰が想像しただろうか。
「うわっ!? 車っ——!!」
大きな横断歩道。
ゆっくりと歩いていた麗奈は、急ブレーキの音と眩しいライトに反射的に車を避けた。
間一髪。
車はギリギリのところで止まった。
……が、彼女の着地場所には赤い郵便ポストがあった。
「いっ……たぁ……」
ゴンッという鈍い音。
痛みが広がるより早く、視界が暗転した。
ふと、まぶたを開けると、まるで絵画のような天井が目に映った。
「え…………?」
金と白の装飾。見慣れない布の天蓋。
柔らかいベッドの感触。
そして——遠くで聞こえる鳥の声が、やけに優雅だった。
「……ここどこ!?」
慌てて起き上がる。
長い袖のついた寝間着がさらりと揺れた。
目の前には大きな鏡。
そこに映っていたのは——艶やかな黒髪を肩まで垂らした少女。
宝石のような瞳に、透き通る白い肌。
「……だ、誰これ?」
そう呟いた瞬間、ドアがノックされた。
「お嬢様、朝食のご用意ができております」
聞こえてきたのは、優しい女性の声。
ドアが静かに開き、メイド服を着た使用人が入ってくる。
「っ……あ、あのっ……」
つい反射的に、麗奈——いや、今の“彼女”が口を開いた。
メイドは微笑んだ。
「お体の具合はいかがですか? レイナお嬢様。」
——レイナ。
その名前を聞いた瞬間、麗奈の頭の中で何かがピキリと音を立てて崩れた。
そう、彼女は3歳のレイナに転生したのだ。
まさかの同名だったから、麗奈もはっきり覚えていた。
(……レ、レイナ……?え、それって、“ラブメロ”の悪役令嬢の……レイナ……!?)
思わずベッドの上で膝を抱えた。
脳裏に浮かぶのは、あのゲームの破滅ルート——“国外追放”と“学園暴走裏ボス化”。
「え、ちょ、ちょっと待って!? よりによって私、そっち側!?」
メイドは首をかしげる。
「お嬢様……?」
麗奈は顔を引きつらせながら、なんとか笑顔を作った。
「い、いえっ! その……あのっ……」
(ど、どうしよう……とりあえず、良い子でいよう……!!悪役令嬢ムーブなんて、ぜっっったい無理ぃぃぃっ!!)
こうして、陰キャによる、破滅フラグ全回避の戦いが幕を開けたのだった。