あらすじ
「僕と一緒に、逃げてくれる?」
四月。八尾 時生(やお ときお)は通う高校の並木道、桜の木にキスをする一ノ瀬 海里(いちのせ かいり)に出会う。時生は思わず、手にしていたカメラでその光景を撮影した。そしてそのシャッター音に気づかれて、彼女に逃げられてしまう。海里は高校の新入生で、まるで気位の高い猫のようだった。
入学式を終えた一ヶ月後のある日、時生は海里の落とし物を拾う。それは演劇の台本だった。
台本を届けに来た劇団の練習スタジオで、時生は斉藤 海咲(さいとう みさき)に声をかけられる。
「これからも、海里ちゃんを見守ってあげてね。」
海里の姉のような海咲は時生が一人暮らしするアパートの上の階、上田 喜一(うえだ きいち)の恋人だと後に発覚する。
台本を届けたことをきっかけに、時生と海里はゆっくりと打ちとけていく。
授業をサボった先の、野良猫の集会場。
海里が初主演を務める演劇の開幕。
海咲と喜一のカップル、海里と時生の四人で行った海水浴。
そして、それは夏祭りのこと。キスを、した。
だけれど、海里と恋人同士にはならないと、時生は言う。
喜一に相談に乗ってもらう海里に嫉妬する、相反した自分がいることに時生は気づく。それは暴力性を孕んだ感情だった。
次の演劇の主演を得て喜ぶ海咲に、喜一は言う。
別れよう。
海里ちゃんを好きになった。
…ごめん。
突然の決別に、海咲の感情が弾けた。
「死んでいますね。」
時生はささやかな嘘を吐いた。そして海咲を冷静に見つめていた。
「私も死ぬ」「死ぬまで、傍にいてくれない?」
海咲の最期を、時生は見守った。
連絡の取れなくなった海咲を心配する海里と劇団の団長に向かって、時生が口を滑らせる。
「海咲さんなら、アパートの上階で死んでますよ。」
時生にはもう会わないでと言う両親との約束を破り、海里は彼と電車に乗って逃避行に向かう。
終着駅に着き、疲れた二人はラブホテルに宿をとった。ベッドで寝ながら、愛について語り合う。
「大嫌いよ」
微笑む海里の嘘が朝日に溶けていった。別れを決意した二人の、それは愛だった。
了