あらすじ
如月裕一の事件簿と関係してるので、加筆した上で紹介。
🏯 犬山城水の陣殺人事件
登場人物
如月 剣人(きさらぎ けんと): 愛知県警捜査一 課の刑事。鋭い洞察力を持つが、時に感情的になる熱血漢。犬山出身。如月裕一の弟。
鵜飼 源蔵(うかい げんぞう): 殺害された被害者。犬山城下の旧家「城衆」の一人。古文書の収集家。
犬田 剛史(いぬた たけし): 旧家「城衆」・犬田家当主。犬山城の観光管理を担い、町の再開発を推進する実業家。
猿田 悟(さるた さとる): 旧家「城衆」・猿田家当主。古くからの慣習と城の保守を重んじる。
1. 桜の季節、蔵の中の密室
平成二十年代後半の桜の季節。愛知県犬山市。
ベテラン刑事である如月剣人は、故郷である犬山で起きた異様な事件の現場に立っていた。現場は、国宝犬山城の麓にある旧家「城衆」の一つ、鵜飼家の敷地内にある古い土蔵。
被害者は、鵜飼家当主の鵜飼源蔵。死因は失血死。
「まるで密室だな、如月」と、ベテラン鑑識官。
鑑識の結果、蔵の扉は内側から厳重に施錠されていた。窓は小さく鉄格子があり、人間が出入りできる隙間はない。
「病死として処理されかけるところでしたよ。しかし、源蔵さんは背中を一突きにされている。これは明らかに殺人です」
如月は、蔵の床に散らばる異様な痕跡に目を凝らした。現場は激しく争った形跡があり、古い陶器の破片が飛び散っている。
そして、被害者の足元には、天守の修復に使われたとされる、古式の鬼の面を刻んだ瓦の破片が一つ、転がっていた。
「この瓦……ただの破片じゃない。何かを訴えているようだ」
2. 『水の陣』の暗号
捜査を進める如月は、源蔵の遺品から一通の古文書の写しを発見する。それは、源蔵が死の直前まで調べていたものだった。
表紙には『尾張八代記・付録 水の陣』と墨書されている。
ページをめくった如月は、ある一文に目を奪われた。
「城危うき時、城衆は集い、木曽川の血の流れを天守に引き上げるべし」
「血の流れを、天守に引き上げる?」
構造上、木曽川の水を天守に引くことすら困難だ。ましてや「血の流れ」など、呪術的な暗号としか思えない。しかし、如月の刑事としての直感は、この古文書が事件の核心にあると告げていた。
如月は、犬山城の管理を担う犬田家当主、犬田剛史と、保守派の猿田悟に接触した。
犬山城はもとは犬山家が管理していたが、10年前に一家が皆殺しにされ(未解決事件)、遠縁の犬田家が任された。
犬田剛史は観光開発を推進する立場から、源蔵の死を「古い慣習に固執した者の末路」と冷淡に見る。
「源蔵さんは、あの古文書の秘密を公表しようとしていた。城の価値を貶めかねない、恐ろしい秘密をね」
一方、猿田悟は怯えた様子で語った。
「源蔵さんが亡くなったのは、水の陣の暗号を追いすぎたからだ。あの秘密が暴かれれば、犬山の歴史は終わる……」
しかし、猿田もそれ以上は語ろうとしない。
3. 鉄砲の間の密約
如月は、古文書の記述と、犬山城の古い設計図を照らし合わせる作業を始めた。そして、天守の西面、木曽川に接する壁の裏に、現行の図面からは削除された細長い空間の存在を見つける。
古い図面には、そこが「鉄砲の間」と記されていた。
「これこそが、祖父が言っていた**『川からの道』**なのか…」
如月は、この「鉄砲の間」が、源蔵の死と「水の陣」に繋がると確信した。
そんな矢先、猿田悟が自宅の庭で何者かに襲撃される。一命は取り留めたが、猿田は病床で如月に語った。
「『鉄砲の間』。あの構造は、城衆の裏切り者を処刑するためのからくりだ。城の水を使い、裏切り者の血を流す。それが**『水の陣』**の実態だ……そして、その秘密を知り、それを隠蔽し続けているのは、犬田家の人間しかいない」
猿田は、源蔵が残した鬼面瓦の破片は、天守の構造を熟知している犬田剛史への「証拠」だったと指摘した。
4. 天守閣の対峙
如月は、確信を持って犬山城の天守閣へ向かった。最上階の望楼には、犬田剛史が立っていた。
「犬田さん。源蔵さんを殺したのは、あなたですね。鬼面瓦は、あなたが天守の修繕責任者として、構造を知り得た唯一の人物である証拠だ」
犬田は静かに笑った。木曽川から吹き上げる風が、二人の間に不穏な音を立てる。
「そうだ。国宝を守るためだ。源蔵は、あの**殺人装置(水の陣)**の存在を公表しようとしていた。そんなことをされれば、城は国宝から外され、犬山は観光地として終わる」
犬田は、源蔵を蔵に呼び出し、口論の末、衝動的に殺害したことを認めた。蔵の扉を内側から施錠したのは、密室に見せかけるために、特殊な細工を施したからくりを利用したのだという。
「私は犬山の未来を守った。そして、水の陣は、これからも永遠に城の秘密として封印される」
犬田はそう言い放ち、如月に背を向けた。
如月は静かに手錠を取り出す。
「犬田さん。あなたは犬山城の管理者かもしれないが、この事件の支配者ではない。あなたのしたことは、ただの殺人だ」
犬山城の天守閣に、手錠の冷たい音が響き渡った。この事件により、「水の陣」という血塗られた歴史の秘密は、再び闇に葬られることなく、如月刑事の手によって白日の下に晒された。