あらすじ
三丁目の怪物
この町の三丁目には、怪物が棲んでいる――と、少なくとも町内会の老人たちは声を揃えて言った。
ただし、彼らは一様にその実体を知らないらしく、「見た」という者ほど、決まって翌日には言うことを変えるのだった。
「いや、あれは怪物なんかじゃなかった。ただの猫だ」
「いや、よくよく見れば郵便受けだったかもしれん」
「いや、もしかするとワシの影だったのかもしれん」
そんな曖昧な証言ばかりが積み重ねられ、いつしか三丁目の怪物は、この町の迷信のように扱われてきた。
しかし、噂が噂で終わらなかったのは、むしろ住民たちの怠惰と無関心のおかげである。
誰も自分で確かめようとしない。
誰も真実を欲しがらない。
それゆえ怪物は、存在しているのかどうかさえ、曖昧なまま今日まで居座り続けた。
さて、この物語は、そんな三丁目の片隅に越してきた一人の青年――
黒田慎太郎(くろだ しんたろう)が、 “怪物”の実体を求めてささやかな冒険をする記録である。