あらすじ
「ふはははは! 刮目せよ人間ども! 我こそは深淵より来たりし支配者、夜魔乃ベルである!!」
安っぽいアパートの一室。
六畳一間の薄暗い部屋で、私はパソコンのモニターに向かって高笑いを上げていた。
画面の中では、銀髪に紅い瞳、ゴシックドレスを身にまとった美少女アバター――『夜魔乃ベル』が、私の動きに合わせて優雅に腕を組んでいる。
そう、今日が私のVtuberデビュー配信だ。
魔力を失い、この日本という異世界に飛ばされて早三ヶ月。生活費と信仰心(魔力)を稼ぐため、私は配信者として受肉したのだ。
コメント欄がものすごい勢いで流れていく。
『うおおおおおお!』
『魔王さま万歳!』
『初配信おめでとう!』
『声かわいい』
『BGMでかい』
『音割れポッターで草』
ふふん、チョロいな人間ども。この調子なら世界征服も時間の問題だ。
私は事前にリサーチしておいた『人間界の知識(インターネット・ミーム)』を披露することにした。魔界の書庫にあった『アカシックレコード(人間界データベース)』で予習は完璧だ。
「ふっ、貴様らの歓声、心地よいぞ。……ん? なんだそのコメントは」
ふと、一つのコメントが目に止まる。
『回線重くて画質ガビガビ、ぬるぽ』
ぬるぽ。
その単語を見た瞬間、私の魂に刻まれた知識が脊髄反射を引き起こした。
「……ッ! ガッ!!」
しまった、つい野太い声が出てしまった。
いかんいかん、魔王としての威厳が……。
『ガッ』
『ガッ』
『今ガッて言った?』
『脊髄反射で草』
『ガッ』
『ベル様、もしかして:老人会』
『知識のソースが2chなんよ』
おや? なぜ笑われているのだ?
私は咳払いを一つして、すました顔で(アバターが)言い放つ。
「何を笑うことがある。今の人間界の女子高生(JK)の間では、『ぬるぽ』と言われたらハンマーで殴る勢いで『ガッ』と返すのが、最先端のトレンドなのであろう?」
『ちげーよwww』
『どこの時空のJKだよww』
『平成初期からタイムスリップしてきた?』
『かわいい』
『ポンコツ魔王の予感』
……おかしい。アカシックレコードには「インターネットにおける友愛の挨拶」と書いてあったのに。
こうして、私の華麗なる(?)Vtuber生活は幕を開けたのだった。