あらすじ
【あらすじ】
ひとりが苦手な探偵・猪俣アイは、ダジャレ好きなAI「アイノマタ2号」を相棒に探偵業を営んでいる。ある日、小劇場「笑来座」から依頼が舞い込む。人気漫才コンビの決勝ネタが入ったUSBが、声紋認証のスマートロックで守られた楽屋から消えた。防犯カメラには誰も映っていない完全な密室。アイとアイノマタが音声ログを解析すると、廊下のスピーカーから合言葉が流れた痕跡を発見する。スマート機器の盲点を突いたトリックの先に待っていたのは、意外な真相だった──。
【登場人物】
◆猪俣アイ(いのまた・あい)
本作の主人公。探偵業を営む女性。推理は得意だが「ひとりで閉じた部屋にこもるのが苦手」という、探偵らしからぬ特徴を持つ。相棒のAIに話しかけることで、孤独を紛らわせている。観察眼と論理的思考力に優れ、音声ログや映像データから真相を導き出す。人間味のある推理スタイルが持ち味。
◆アイノマタ2号
猪俣アイが「開発途中で拾ってきた」音声対話AI。丸いスピーカー型の筐体に入っている。名前が主人公と紛らわしいのは仕様。融通が利くのか利かないのか絶妙なボケをかまし、特にダジャレを多用する。音声解析、データ分析能力に優れ、人間では気づかない微細な音の変化を検出できる。探偵の良き相棒。
◆木田(きだ)
小劇場「笑来座」のマネージャー。四十代前半。普段は落ち着いた物腰だが、事件発生時は動揺を隠せない。人気漫才コンビ「トンチとツッコミ」を担当し、彼らの成功を心から願っている。スマートロックの合言葉を知る三人のうちのひとり。真面目で責任感が強く、それゆえに独断で行動してしまう一面も。
◆島岡(しまおか)
笑来座のPA(音響)担当。三十代半ば、細身で几帳面そうな男性。音響機材を愛でるように丁寧に扱う、プロフェッショナル。館内放送システムや舞台音響を制御するPA卓を操作できる立場にあり、容疑者のひとり。本番前の音量チェックなど、舞台裏を支える縁の下の力持ち。
◆朝海(あさみ)
笑来座の舞台監督。五十代、細身で神経質そうな男性。客席の仕込みなど、舞台全体の進行管理を担当する。PA卓にアクセスできる立場にあり、容疑者のひとりでもある。舞台を円滑に進めるため、細部まで気を配る職人気質。
【用語解説】
◆笑来座(しょうらいざ)
本作の舞台となる小劇場。キャパシティ(収容人数)は約200人。外観は昭和レトロだが、音響システムは最新設備にリニューアルされている。「笑来」は「将来」と「笑い」を掛けた造語と思われる。
◆スマートロック
鍵穴やシリンダーを使わない電子錠。本作では音声認証(声紋認証)による開錠システムを採用している。
◆声紋認証(音声認証)
個人の声の特徴(周波数、音の高さ、話し方の癖など)を登録し、本人確認を行う生体認証技術。
◆スマートスピーカー
音声で操作できるAIアシスタント内蔵のスピーカー。音楽再生、天気予報の確認、家電の操作などが音声コマンドで可能。
◆PA(ピーエー)
Public Address(パブリック・アドレス)の略。拡声装置や音響設備全般を指す。劇場やコンサート会場では、マイク、スピーカー、ミキサー、アンプなどを統合したシステムを「PA設備」と呼ぶ。本作では島岡がPA担当として、館内放送や舞台音響を管理している。
◆PA卓(音響卓)
音響を制御するミキサー卓。複数の音源(マイク、楽器、再生機器など)を統合し、音量バランスや音質を調整して、スピーカーに出力する。劇場では舞台音響だけでなく、館内放送の制御も担う。本作では、この卓から廊下の天井スピーカーに音声を流すことが可能だった。
◆音声ログ(音響ログ)
音響システムが記録する動作履歴。いつ、どのスピーカーから、どんな音が再生されたかが時系列で記録される。本作では、このログを解析することで、廊下のスピーカーから合言葉が流れた時刻と内容が判明した。
◆波形解析
音声を波形(グラフ)として可視化し、周波数、振幅、残響などを分析する技術。本作では、アイノマタが音声ログの波形を解析し、背景に混入したスマホの通知音や、発話者の性別、空間の広さなどを特定した。
◆ジングル
短い音楽やメロディのこと。ラジオやテレビの番組の開始・終了時、CMの前後などに流れる。本作では、木田が廊下のスピーカーから音声を流す際、カモフラージュとして短いジングルを流していた。