あらすじ
高校3年生の夏、水泳部に打ち込んでいた海野海月(うみのくらげ)は、雨の日にトラックと衝突する事故に遭い、下肢に重い麻痺が残る。
大好きだった水泳も、歩くことも、走ることも奪われ、雨の日を心底憎むようになった海月は、絶望の中で病院の日々を送っていた。
そんな彼女の病室に、幼馴染で同級生の高井そらが、変わらない笑顔で現れる。
足のことは一切触れず、まるでただの風邪であるかのように、毎日そばにいてくれるそら。
ある雨の日、海月はぽつりと漏らす。
「私、飛びたい。」
地面に縛られたままの自分を解放したくて、空を、上を、自由を欲していた。
そらは迷わず答えた。
「飛びたいなら、俺が連れてく。」
そして自然すぎるほどに告げた。
「好きだからだよ。」
退院の日、そらは車椅子ごとの海月を抱え、丘の上へと連れて行く。
そこで広げたのは、手作りの大きな「空飛ぶマント」。
「俺につかまってればいい」——そう言って、そらは海月を強く抱きしめ、風に向かって走り出す。
ほんの一瞬、ほんの一メートルだけ。
でも確かに、二人は空に近づいた。
海月は泣きながら笑った。
初めて「生きている」と感じた瞬間だった。
それから数ヶ月。
リハビリ室で、海月は自分の足で一歩を踏み出す。
まだ数センチ。けれど確かに、自分の意思で。
「そら!見て!!」
興奮して叫ぶ海月に、そらは満面の笑みで応えた。
「すげぇよ、海月。」
海月は息を弾ませながら言う。
「今度は、私の足で、あの丘に行きたい。」
そらは優しく手を握った。
「行こう。今度は海月の足で、空を目指そう。
マントはまた2枚用意しとくから。」
雨の日が怖いままだった少女は、もういない。
少しずつ、自分の足で空を見上げる少女がいた。
そらと一緒に、ゆっくりと、でも確実に。
歩けなくなっても、心は飛べる。
そして、歩けるようになったとき、
その心はもっと高く、もっと自由に羽ばたく。