あらすじ
2020年、インドネシア・ジョグジャカルタで林学を学んでいたナズリルは、卒業を前に日本人女性のハルナと結婚する。ナズリルは自然崇拝を重んじるケジャワン的価値観を持ち、ハルナは神道の家系に育った。文化も信仰も違う二人だったが、互いを尊重し支え合いながら家庭を築き、やがて長男レザが誕生する。
最初の数年は穏やかだったが、2025年、ナズリルの仕事の昇進により、日本・京都府福知山市の山間の集落「天座(アマザ)」への転勤が決まる。家族はオオサカを離れ、静かな山里で新生活を始めることになった。
引っ越しの途中、タイヤの故障で立ち寄った山道で、彼らは整備士のトリヤマとキシモトに出会う。二人はこの土地に伝わる鬼「酒呑童子」の伝説を語り、夜の森には“何か”が潜んでいると警告する。やがて、森の闇の中に赤い目を光らせる影が現れ、家族は初めて“異様な気配”を感じ取る。
目的地に到着した夜、彼らは古びた木造の家に入居する。そこで地元の夫婦アラキとムラヤマが現れ、「この土地では“見られている”と感じることが多い」と不穏な忠告を残す。ハルナは屋根裏に動く影を見つけ、外からは“風の歌”のようなざわめきが聞こえてくる。
翌日、ナズリルはアラキとムラヤマと共に山林へ出かけるが、その夜は不吉な**ジュマット・クリウォン(イスラムの凶日)**と満月が重なる夜だった。ハルナとレザは家で不安に包まれながら過ごし、外から聞こえる微かな音に怯える。アラキは「どんな音がしても、決して外を覗くな」と警告を残す。
その一方で、ハルナは新しい命を宿していることを密かに知っていた。レザにはもうすぐ妹「ミナミ」が生まれる――だが、その“祝福”すらも、この山で起こる出来事の始まりにすぎなかった。