あらすじ
まがい屋とは、まがい物を作る、或いはまがい物を売る人のことを言う・・・・・
賀来淳一郎は十何年振りに音大時代の友人黒瀬と会う。
共にピアノを学び、共に挫折して、黒瀬は大学に入り直して官庁に就職し、賀来はライターになっていた。
呼び出されたピアノバーには朝倉がいた。どこかの官庁に勤めていて、師事していたピアノ教授宅で高校の時一度会ったことがある。
黒瀬は独立法人国立美術館の理事なっている。彼は絵皿の写った1枚の写真を出して、仕事を頼みたいと言った。
1790年代に活躍した浮世絵絵師で、名は枕屋幾芳と言う。彼はオランダ船に乗ってアムステルダムへ密航し、ドイツのマイセンへ行き、皿に絵付けなどして王族の間でもてはやされた。特にマイセンの皿に浮世絵を描いた作品が秀逸で、ウィーン・ハプスブルグ家のオートナー美術館の所蔵品になっている。3枚1組のその皿が見つかった。
この写真はその中に1枚だと言う。第二次大戦中、ドイツがオーストリアに侵攻した際、ナチスが根こそぎ美術品を略奪した。その時にドイツの手に渡ったのだが、この作品を持っている男が現れた。
所有者はラムゼイと名乗るナチの元親衛隊の隊員で、おそらくネコババしたものと思われる。現在彼はオーストリアに住んでいるので彼と会って、本物かどうか確かめてほしいという依頼だった。本物であれば持ち帰ってほしいと。
賀来は了承して、オーストリアへ向かう。Q誌から〈ウィーンの音楽家たち〉という仕事が入ったのだ。
ホーアーマルクト広場で待ち合わせるがラムゼイという男は来ない。
翌日、賀来はラムゼイのアパートを訪ねる。ラムゼイの部屋の前で隣の住民が、ラムゼイは3日前に死んだと言う。
仕方なく賀来は午後から〈ウィーンの音楽家たち〉というQ誌の仕事にかかる。ベートーベンとモーツァルトの取材をしたその夜、食事先で女がピアノを弾いていた。その女は朝、ラムゼイのアパートで会った女だった。
女の弾くピアノの音が御井響子によく似ていたので、気になったのだ。御井響子も賀来と黒瀬と同じピアノ教師の門下生で、賀来と響子は一時付き合っていた。
女はハンナと名乗り、画家だと言う。画家と聞いて賀来は、彼女の気を引こうとして絵皿の話をして写真も見せる。
浮世絵の描かれた絵皿を見て、ハンナはこの写真を見たことがあると言う。ワルシャワのクラクフの街でアトリエがわりの倉庫を借りたのだが、その壁に3枚ほど写真があった、と。賀来は案内を頼む。
賀来とハンナはクラクフへ飛ぶ。
倉庫で絵皿に描かれた3枚の写真を手に入れたが、そこにゴミのように捨ててあった額縁の裏から絵を見つける。ヒトラーのサインがある。日付は1944年12月5日になっている。ドイツ降伏の1年前の新聞にくるまれている。オーストリアが生んだ印象派の巨匠ボルベールの作で、〈海の見える風景〉という絵画だと言う。
ドイツが戦時中欧州各国から略奪した芸術品を旧ロシアが横取りして、エルミタージュ美術館の保管庫に眠っていると言われている作品で、真作であれば大変な発見だと言う。
賀来はY新聞の横溝記者がちょうどクラクフにいるのを思い出し、横溝記者を呼ぶ。横溝がすぐにやって来て、しかるべき機関で鑑定すると言う。
横溝記者は去り、ハンナも夕食での再会を約束し、賀来はホテルへ戻る。
しかしハンナは戻らない。賀来は女を諦めて、オーストリア・ザルツブルグ空港へ戻る。〈ウィーンの音楽家たち〉という仕事の続きをするつもりだった。
オーストリアに入国した瞬間、賀来は逮捕される。罪状は〈海の見える風景〉をワルシャワへ持ち出したこと。それからハプスブルグ家のオートナー美術館から米国への譲渡書がついているが、その書類の偽造という2つの罪。
賀来はウィーン駐在日本国大使館員との面会を要求。翌日、やって来たのは昔別れた御井響子だった。
御井響子の勧めもあって賀来は罪を認めて解放される。
発見された〈海の見える風景〉は精巧な贋作だが、ロシアが〈海の見える風景〉の所有を戦後一貫して否定していることから、戦前から米国人の所有する倉庫で発見されたので、米国の所有となり、公式には真作になる。ロシアの所有している作品は価値がなくなる。
この作戦を発案したのは日本の民間人で、オーストリアの秘宝〈海の見える風景〉がロシア・エルミタージュ美術館で塩漬けになっているのに目を付けて、或るグループに贋作制作を依頼。それを米国に渡し、米国は世界に公表する。
ロシアは元々海の見える風景はロシアにはないと戦後一貫言い続けているので、その時点で米国の物が真作になる。次にオーストリアが〈海の見える風景〉はオーストリア・オートナー美術館の所蔵品だと米国にクレームをつけ、国際機関での公開鑑定を求める。
米国の手にある〈海の見える風景〉は贋作なので、米国は窮地に陥る。そこでオーストリアは米国の所有する〈天地創造〉を要求することで海の見える風景の真贋鑑定要求を引っ込める。米国の〈海の見える風景〉が真作になる。日本は〈海の見える風景〉を米国に渡したお礼に、戦後すぐに米国に流出した国宝を引き取る。
一連の騒動はすべて戦後米国の美術館に流れた日本の国宝を取り戻すために打った芝居だった。