あらすじ
放課後の弓道場は、いつも静かだった。
城燈真にとって、それは唯一の“居場所”だった。
弓を引くたびに心のざわめきが消えていく。
世界が、無音になる。
その無音が、何よりも美しかった。
その日、矢を放った瞬間――
「……すごい。」
背後から、低く、柔らかい声が響いた。
音。
燈真の眉が、わずかに動く。
「……誰だ。」
弓道場の入口に立っていたのは、見たことのない制服の少年だった。
金茶の髪が光を受けて揺れ、手には黒いケース。
「君の“間合い”が、美しいと思って。」
「……“間合い”?」
「音楽にもあるんだよ。弓を放つ前の沈黙——それは、演奏が始まる前の静寂に似てる。」
「……何を言ってる。」
「僕は柊一。今日から音楽科に編入したんだ。」
弓を持つ手を見つめる一。
「矢を放つ瞬間の“呼吸”、あれはまるで音楽のテンポだね。」
燈真は弓を下ろした。
彼の世界に、“音”が入り込んだ瞬間だった。