あらすじ

四月、桜の下で彼女に別れを告げられた瞬間、空から雪が降り始めた。春のはずの公園に真冬の雪。男は悟る。自分の心の凍結が世界を変えてしまったのだと。その日を境に季節は狂い始めた。四月の氷点下、五月の霜、六月の雹、七月の竜巻。悲しみ、怒り、混乱、諦め――男の感情がそのまま気象に反映され、地球規模の異常が続く。彼女を思い出すたびに寒暖は激しく変わり、忘れようとするたびに風が荒ぶった。誰にも理解されず、彼は孤独と虚無の中で自らの心の暴走に耐えていた。  やがて彼女の顔すら記憶から薄れ始めた頃、男は恐怖と焦燥の狭間で電話をかける。だが受話器の向こうから告げられたのは「もう、新しい人がいる」という言葉。絶望の中で空が割れ、世界が静止する。凍りついた時間の中で彼は一人、公園へ向かう。あの日の桜の木の下で、彼女を愛していたこと、そして手放さねばならなかったことを受け入れ、涙を流す。その瞬間、風が吹き、鳥が動き、時間が再び流れ出した。裂けた空は青空に戻り、十一月の雪が静かに舞う。優しく、自然な雪だった。  季節の異変は収まり、男の心にも平穏が戻った。痛みは消えずとも、それを抱えて生きることを選ぶ。やがて春が訪れ、桜が再び咲く。あの日と同じ公園で男は静かに花びらを見上げ、隣に座った見知らぬ女性と微笑みを交わす。新しい出会い、新しい季節。過去の「春の雪」も「夏の霜」ももう降らない。季節は正しく巡り、人生もまた巡っていく。彼は手のひらに落ちた花びらの温もりを感じ、本当の春を迎えた。

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エブリスタ
エブリスタ2025/11/10
  • 現在の作品春の雪、夏の霜