あらすじ
春。北栄第一高校の入学式の日、神原出雲は奇妙な違和感にとらわれていた。 昨日も、同じ入学式に出た気がする――そんな記憶が、確かに彼の中に残っている。 吹奏楽部の演奏、生徒会長のスピーチ、教室で受け取ったプリント。 それらは夢のように曖昧でありながら、現実の手触りを持っていた。
しかし、周囲の誰もが今日を「初めて」として振る舞い、昨日のことなど口にしない。 出雲はその違和感を誰にも打ち明けられず、ただ静かに抱え続ける。 日常は何事もなく進んでいく。けれど、ほんの少しだけ、世界がずれているような気がしてならない。
これは、記憶と現実の隙間に立つひとりの少年が、 “確かだったはずの昨日”をめぐって揺れる心を描いた、静かな春の物語。