あらすじ
彼が去った工房で、調香師の「私」は残されたコートにかすかに残る香りから、彼の体臭や日常を精緻に再現する香水作りに没頭する。シャンプーやコーヒー、秋の空気の要素を慎重に配合し、ついに香水が完成。瓶を開けた瞬間、嗅覚を通してかつての幸せな記憶が鮮明によみがえる。以来、香水に依存するようになり、過去にすがる日々が続くが、体調が悪化し、香水の残量も減っていく。
香水の使用制限を決めるも依存は断ち切れず、街中で彼の新しい幸せを目の当たりにしたことで、ついに最後の一滴を使い切る。その夜、彼との別れの記憶が蘇り、工房の窓から香水の最後のしずくを夜風に流すことで、過去に決着を付ける。
一年後、新たな依頼者に未来を祝う香りを調合しながら、「今この瞬間の香り」の大切さに気づく。彼の香りはもう作らないと決め、過去の記憶を心の支えとしながらも、今日を生きていく強さを手に入れる。消えたはずの香りは、消えておらず、記憶と共に新しい人生の糧になっていた。