あらすじ

『怪奇蒐集家の手帖』へようこそ あなたは、この世界の「確かさ」を、心から信じていますか? 足元のアスファルトが明日も同じ硬さであること。 耳に聞こえる音が、世界に存在するすべての音であること。 自分の記憶が、揺るぎない事実の記録であること。 私たちは、そんな当たり前を疑うことなく生きています。しかし、ごく稀に、その日常という名の薄い氷が、予期せず軋む瞬間があるのです。その軋みの下に広がる、冷たく暗い深淵を、ふと覗き込んでしまった人々がいます。 この『怪奇蒐集家の手帖』は、そんな稀有な体験の記録集です。 物語の案内人は、私、「怪奇蒐集家」。 ロンドンから取り寄せた紅茶の香りが満ちる書斎で、私は訪れる人々から静かに話を伺います。私が蒐集しているのは、血飛沫が舞うような派手な事件ではありません。人を驚かす幽霊や、牙を剥く怪物の話でもないのです。 私が求めるのは、もっと静かで、本質的な恐怖の欠片。 例えば、いつも使う最新のイヤホンが拾ってしまった、聞こえるはずのない「世界のノイズ」。あるいは、道端に引かれた一本の奇妙な線が隔てていた、二度と戻れない日常。それらは、誰かの日常の中で確かに起きた、ほんの僅かな「ずれ」の物語です。 その「ずれ」に触れてしまった者は、もう以前と同じ目では世界を見ることができません。すべてが作り物のように見え、あらゆる音は嘘を囁いているように聞こえる。その恐怖は、決して叫び声にはならず、ただ静かに、そして永続的に、その人の生を侵食し続けます。読後に残るのは、爽快感でも納得でもなく、「あれは、一体何だったのか」という、答えのない問いと、拡散していくような後味の悪さだけかもしれません。 ここで語られる話はすべて、「誰かから直接聞いた実話」という形式をとっています。 なぜなら、これらは遠いどこかの御伽噺ではなく、あなたの日常のすぐ隣で、今この瞬間にも起きているかもしれない、地続きの恐怖だからです。この手帖を一枚、また一枚とめくっていくうちに、あなたの周りにある風景や道具もまた、違った貌を見せ始めるかもしれません。 さあ、今宵も書斎の扉が開かれました。 暖炉の火が静かにはぜる音に耳を傾けながら、私が蒐集した奇妙な話に、少しだけ付き合ってはいかがでしょう。 これは、あなたのための物語であり、あるいは、あなた自身の物語でもあるのですから。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2025/11/05
  • 現在の作品怪奇蒐集家の手帖~そのデバイスは、世界の《バグ》を記録している~