あらすじ
『ふり返ったロトの妻 ― 炎の町に残したもの ―』
砂の上に
まだ わたしの足跡が残っている
朝の光が その影を舐め
風が ひとつずつ 消していく
燃える町の匂いが
胸の奥で まだ消えない
香油の瓶 鏡台の金
笑い声――
あの夜の灯りが 瞼の裏で揺れている
「ふり返るな」
そう言った声は 雷のように響いた
けれど
母として 妻として 女として
わたしはただ 家を思い出しただけだった
砂の痛みを踏みしめながら
祈りを忘れたわけじゃない
愛したものを
ただ もう一度見たかっただけ
その瞬間
熱が空から落ちてきた
皮膚が焼け
涙が塩になり
声が石になった
それでも
風が吹くたび
わたしは呼んでいる
「生きなさい、前を見て」
丘の上のあなた――
ロト、
ミリアム、
ゼラ、
どうか泣かないで
わたしは罰ではなく
祈りになったの
塩の柱の中で
あなたたちを見守っている
燃える町が沈黙に変わるころ
風の音が告げる
――人は誰も
愛をふり返らずには 生きられないと