あらすじ
六月の雨の日、傘を忘れた主人公は、白いワンピースの女性・雨音と出会う。傘を譲り、雨の中に消えていった彼女は、自らを「雨音と呼んで」と名乗った。その不思議な出会いに惹かれた主人公は、再び雨の日に彼女を探し、再会を果たす。雨音は「私は雨の日にしか外に出られない」と語り、雨が自分の一部であると告げる。彼女と過ごすうち、主人公は心に癒しを得ていく。彼女は言う。「雨は誰かの感情。泣けない人の代わりに空が泣いている」と。失恋の痛みを抱えていた主人公は、自らの悲しみが雨となり、彼女を呼び出したのかもしれないと感じ始める。
やがて梅雨が明け、雨の降らない日々が続く。世界的な干ばつが発生し、雨音の姿も消えた。彼女は雨とともに存在しており、人々が悲しみを忘れてしまえば、雨もなくなるのだという。季節が変わったある日、ようやく霧雨の中で彼女と再会するが、その姿は薄れ、消えかけていた。雨音は「私はあなたの涙。あなたが前を向けたなら、もう必要ない」と言い残し、雨の中に溶けていった。
数ヶ月後、乾いた世界に久しぶりの雨が降る。元恋人と再会し、穏やかに別れを受け入れた主人公は、雨に打たれながら空を見上げる。その雨の中に、彼女の存在を感じた。雨は忘れた感情の記憶であり、人が涙を流す限り降り続ける。雨音は消えたのではない。世界とともに、彼の心の中で生きている。主人公は再び歩き出す。雨を忘れず、悲しみを抱えて生きていくために。