あらすじ
風を司る一族に生まれた凪は、人々の記憶を風に乗せて葬る「風守」として生きている。死者を想う心はやがて生者を蝕むため、風に変えて空や海、山へ還すのが凪の役目だ。彼女は今日も人々の悲しみを受け取り、孤独に風を運んでいた。
ある日、白い風鈴が鳴る。生と死の境にある深い記憶を告げるその風鈴の主は、凪自身だった。風の中に混ざっていたのは、三ヶ月前に山で命を落とした恋人・蒼の記憶である。風守には自分の記憶を葬ってはならない掟がある。しかし凪の手の中で蒼の記憶は脈打ち、重さに耐えきれない。彼を忘れずに生きるのか、掟を破って風に還すのか――凪は苦悩する。
やがて風に導かれ、凪は蒼が亡くなった山へと向かう。彼との出会い、共に過ごした日々、残された手紙が胸に蘇る。涙の果てに凪は気づく。風葬とは忘却ではなく「手放すこと」だと。記憶を縛るのではなく、風に委ねて自由にすることなのだ。凪は蒼の記憶を空へ解き放ち、ただ一つ「君の悲しみは僕が受け止める」という言葉だけを心に残す。
その後も凪は人々の記憶を葬り続ける。誰かの悲しみを風に変え、希望を託す日々の中、彼女はもう孤独ではない。蒼の想いは風となり、世界のどこかで誰かを包んでいる。風は巡り、形を変え、愛を運ぶ。凪はその風の中に彼の気配を感じながら、新しい依頼へと歩き出す。
――風となった恋人は永遠に世界を吹き渡り、凪の傍にあり続ける。