あらすじ
紙と糊から生まれた赤べこの「私」は、右にわずか寄る癖と、揺れるたび胸奥で鳴る小さな「こつ」を拍として得る。店先の棚で、零度の停止が美しい小さな赤(彼女)と、艶やかで等角の往復を誇る赤(彼)に出会う。私は滲み、彼は艶、彼女は静。風の筋に合わせて稽古するが、癖は消えない。祭の日、三体が台に並ぶと、選ばれたのは彼女と彼。箱の中に消える二つの赤を見送り、私は敗北を角度と時間にたたみ込む。やがて別の小さな店へ運ばれ、夜勤明けの若い女性の呼吸と換気扇の一定の音に合わせて五度と零度を繰り返す。やがて私はその女性に包まれ、赤子のいる狭い家の窓辺へ。風の間隔に合わせて首を振るたび、半拍遅れて整う寝息、薄く和らぐ室内。選ばれなかった日々の拍は祈りの頷きへと転じ、負けた角度と祈る角度が重なって、私は誰のものでもなかった赤から、確かに誰かのための赤になる。