あらすじ
この近未来SF短編は、量子計算の進展で従来の暗号が崩壊し、電子記録が改竄されやすくなった世界が舞台です。国家や企業に属さない「ラテラル・ゾーン」と呼ばれる連絡施設は戦時下の中立地帯として機能し、雨の夜に軍の「資産」として扱われる果実章の少女たちを乗せた列車が緊急停車します。初日配属の事務員である語り手は、まとめ役とともに軍士官やスポンサーの圧力を受けつつ検疫と通行手続きを行うが、少女たちは光子鍵を生体に宿した暗号キャリアであり、渡せば軍事機密が敵に漏れる危険を孕んでいます。通信を鈍らせる雨の間隙を利用し、語り手は検疫票の順序や備考欄を操作して合法的な「一時保全」を適用し、全員を施設内に匿う道を選びます。やがて雨が小降りとなって通信が回復する頃、列車は形式上出発するものの少女たちは保護区画へと移されます。中立の名の下に規定をどう運用するかという倫理と人間性の葛藤を描いた物語です。