あらすじ
『触れずに恋して、罪になる』
老いは
すべてを静かに奪っていくと思っていた。
若さも、
未来も、
可能性も。
——けれどひとつだけ、
年齢では鈍らないものがある。
胸の奥で
まだ名を呼ぶ声。
あなたの姿を見つけた日、
杖を握った手が震えた。
心臓だけが、
あの日の放課後のまま跳ねた。
触れていない。
言い寄っていない。
奪う気など、ひとかけらもない。
ただ同じ空気を吸って、
同じ陽だまりの中で、
同じ季節に生きている。
それだけで、十分だった。
けれど——
「あなたが笑うだけで若返るのよ」
と、誰かが嫉妬した。
恋人でもない。
不倫でもない。
罪を犯したわけでもない。
なのに私たちは、
視線一つで裁かれた。
でもね、
私、わかっている。
人は、
身体が老いるより先に、
心が孤独に耐えられなくなる。
だから、許してほしい。
私はただ、
もう一度、
胸が音を立てる瞬間を
思い出したかっただけ。
死ぬ前にひとつだけ、
確かめたかっただけ。
——触れずに恋したって、
人は生き返る。
たとえそれが、
誰かにとっての罪でも。
静かに、
静かに、
老いてなお脈打つ恋が
私の中でまだ呼吸している。
それだけで、
私はもう
充分幸せだ。