あらすじ
結心(ゆい)は若き編心師の見習い。幼なじみの蒼真(そうま)が中学三年の冬、家族を事故で失って心を閉ざして以来、彼の心の糸は悲しみの円環に囚われていた。結心には、その糸の痛みの音が聞こえる。彼女は蒼真を救おうとするが、それは編心師の戒律に背く行為でもあった。愛する者の心に触れれば、自分の糸が解け、感情を失う――それが禁忌だった。それでも結心は蒼真を見捨てられない。
彼の絶望が深まる中、蒼真は昏睡状態に陥る。彼の心は事故の瞬間を無限に繰り返す精神世界に閉じ込められていた。結心は師匠・紡(つむぐ)に禁術「編心返し」を教わり、蒼真の心へと入り込む。蒼真の罪悪感や悲しみを自らの中に編み込み、その苦しみをすべて引き受ける代償として、結心の心の糸は白く染まり、感情を失った。
蒼真は目を覚ます。心の痛みは消え、胸の奥には金色の「しあわせ」の温もりが宿っていた。しかし目の前の結心は、自分の名前さえ覚えていない。感情をなくした彼女を前に、蒼真は涙しながら誓う。――今度は自分が結心を守り、彼女に「返す」番だと。
季節が巡り、二人は高校生になる。結心は無表情のままだが、蒼真は変わらず傍に寄り添い、彼女の中に微かな笑みの痕跡を見る。結心の糸は白くとも、その奥には確かに愛の記憶が息づいている。誰かのために編まれた心の糸は、たとえ色を失っても消えることはない。蒼真の胸に刻まれた金色の模様は、結心の命をかけた愛そのものだった。