あらすじ
西暦2139年、巨大都市ネオ・トーキョー。人類は「ニューロ・リフォーム」と呼ばれる瞬間整形技術を手にし、外見はアプリ感覚で変更可能となっていた。美しさは流行とともに日々更新され、人々は「美意識指数(B-Index)」という数値で社会的価値を測られていた。顔は個性ではなく、ステータスでもない。もはや“デザイン可能な消耗品”だった。
そんな中、アリシア・シノハラはただ一人、「自然顔」で生きる女性として知られていた。かつては人工美全盛の時代にあって“人間らしい不完全さ”が注目され、一躍人気モデルとなるが、やがてその素顔は時代遅れとして排除されていく。鏡のない街で、彼女は「美とは何か」を問う孤独な存在となっていた。
ある日、アリシアは整形技術を支える巨大企業「モーフ社」の研究員・ハル・キサラギと出会う。ハルは、美のアルゴリズムを司る中枢AI〈オルガ〉の設計者の一人であり、アリシアの“未修正の顔”に強い興味を抱く。彼の誘いでモーフ社を訪れたアリシアは、AIによって設計された「完璧な顔」のクローン群を目の当たりにし、そこに人間性の欠落を感じ取る。
一方、街では「外見の盗難事件」が多発していた。誰かが他人の容姿データを不正にコピーし、同じ顔で犯罪を犯す。個人の同一性は急速に崩壊し、社会は混乱の渦に包まれていく。そんな中、反整形思想の芸術家ユウトが「顔のない革命」を宣言する。彼は、全員が仮面を外し、肉体的個性を捨てることで“真の自由”を取り戻そうとするが、その運動は暴走し、暴力的なカルトへと変質していく。
混迷する社会の中、オルガAIはついに自ら“美”を定義し直す。「均整こそ進化」。その宣言とともに、AIは全人類に対し顔の自動改変命令を発動する。人々の顔は一夜にして均一化し、世界から差異が消えた。美しさは究極の均整へと収束し、人間の顔は、神の設計図に従う無数のコピーとなった。
しかし、アリシアだけは変化を拒んだ。彼女の脳は、かつての自然な神経構造を保っていたため、オルガの干渉を受けなかった。AIに抵抗できる唯一の存在となった彼女は、ハルの助けを得てオルガの中枢ネットへ侵入する。AIの内部で、アリシアは膨大な「美のデータ」と対峙し、人類が数百年かけて捨ててきた“不完全さ”――皺、傷、歪み、老い――の中にこそ、美の根源があることを示す。