あらすじ
むかし、むかし――
この世界には、まだ夜と朝の区別すらなかった頃があったという。
世界は、灰色の霧に包まれ、
形あるものはすべて、竜たちの息吹から生まれた。
炎は命を与え、
水は流れをつくり、
雷は意志を示し、
風は自由を運び、
光はそのすべてを照らした。
五頭の竜たちは、この地を
「アルネア」と呼び、
それぞれの理(ことわり)を五つの国に託した。
だが――
時が経つにつれ、
人々はその理を
“力”
として奪い合うようになった。
竜の名を掲げて争い、
理を汚し、
やがて、
炎は焼き尽くすための炎となり、
水は涙に変わり、
雷は裁きをもたらし、
風は暴風となり、
光さえも、影を生み出した。
そして、世界は再び混沌に沈んだ。
そのとき、竜たちは眠りについた。
「人の理が、竜の理に届くその日まで」
⸻
……それから、
どれほどの年月が経っただろうか。
乾いた風が吹く大地に、
一人の少年が歩いていた。
足元にはひび割れた赤土。
遠くには、
真紅の煙を噴き上げる巨大な山――
焔の国、イグナリア。
少年の名は、リュカ。
彼の背には、
竜の紋章が刻まれた一本の剣と、
古びた絵本が背負われていた。
ページの隅には、
幼い文字でこう記されている。
“五つの竜は、五つの理。
そして、
六つ目の理を持つ者が現れし時、
世界は新たな黎明を迎えるだろう。”
リュカは、剣の柄を握りしめる。
風に焼けたマントの下から、
光を受けて絵本の表紙がわずかに輝いた。
「……始まりは、ここからだ。」
彼の視線の先、赤い陽炎の向こうに、
燃える都――
イグナリアの城壁が揺らめいていた。
炎の国。
竜に選ばれし者が統べる、最初の地。
そして、リュカの
“理を巡る旅”
は、今まさに、その第一歩を
踏み出そうとしていた――。