あらすじ
『時給1,226円の放課後』
チャイムが鳴ると、
制服の袖口が
少しだけ大人の匂いをまといはじめる。
帰り道の空は
オレンジと群青の間で迷っていて、
その境目を歩く私は、
まだ子どもで、
でも、もう子どもじゃない。
バス代、
スマホ代、
来月のコンディショナー。
欲しいものは少しで、
必要なものは多い。
ポケットに入れた
折りたたまれたメモには、
今日覚えるべきタスクが
走り書きみたいに眠っている。
買い物、
洗濯、
掃除、
料理。
そして——沈黙の部屋に声を置くこと。
「ありがとう」
その一言が、
硬貨でも紙幣でもない重さで胸に落ちる。
お皿を洗う音、
包丁がまな板を叩く音、
お湯が沸く前の小さな息づかい——
それら全部が、
時給1,226円のリズムで進んでいく。
働くって
こういうことなんだろうか。
誰かの生活に触れて、
自分の時間を差し出して、
代わりに、
少しだけ未来を手に入れる。
封筒に入った44,136円は、
ただのお金じゃない。
放課後と、
ため息と、
迷いと、
小さな誇りが折り重なっている。
帰り道、
コンビニの窓に映る私は、
すこし疲れて、
でもすこし、強い。
——まだ答えは出せないけれど。
この仕事が終わる頃、
私はもう、
ただの「17歳」じゃないはずだ。